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2010年6月2日水曜日

組織の不条理その2

同書が使う新制度派経済学のアプローチとは、具体的に以下を指します。
①取引コスト理論
②エージェンシー理論
③所有権理論

 そもそも経済学で扱われる人間は、完全合理的な経済人と定義されていました。
しかしながら、新制度派経済学はすべての人間は限定合理的であり、限定された情報の中で意図的に合理的にしか行動できないという『限定合理性』と、すべてに人間は効用極大化するという『効用極大化』の二つの仮定から、市場と組織を制度と見なして分析するものです。

 ここでは、「取引コスト理論」について説明し、それをもとにした日本軍の不合理の見本として取り上げられる「ガダルカナル島」の作戦についての同書の見方を紹介しましょう。

 取引コスト理論は、「すべての人間は限定合理的であり、そのために人々は相手の不備に付け込んで自己利害を追及する機会主義的な傾向があるとする。このような限定合理的な人間からなる世界では、合理性と効率性を倫理性(正当性)は必ずしも一致しない。合理的ではあるが、非効率で非倫理的(不正)であるという不条理が発生する。つまり合理的非効率や合理的不正と呼びうる現象が起こる」というものです。

 例えば、ある企業がより多くの利益を得るために経営計画をたて、多額の投資を行って、必要な人材の手当てをして行動し始めたとします。しかし、そのうち外部環境が変化して、今までの計画では非効率になることがわかり、新たな計画が必要となったとします。この場合、企業は現在の計画を棄てて、より効率的な計画に移行する事ができるでしょうか。
 取引コストが発生する世界では、容易にその計画を変更する事はできません。なぜなら、既存の計画を放棄するには、多大な取引コストが発生するからです。多額の投資も埋没コストとなり、手当てした人材、外部との取引関係などを断ち切る必要があるからです。したがって、それが好ましくないとわかっていても、容易に計画を変更できず、既存の計画にしがみつく事がかえって合理的と思えるようになるのです。

「QWERTY」のキーボードの配列を考えてみましょう。この19世紀から使われている配列は、使用する単語の頻度、指の動きなどに関する人間工学的観点からは非効率であることがいわれています。実際、この配列はあまりに早く打ちすぎると、タイプライターのアームが絡まるため、逆に手の動きを遅くするために考案されたもので、今となってはその技術上の必要性はありません。しかし、なぜそれにしがみついているのか。人間工学に基づいた、より効率的な配列が生れなかったのはなぜか。これは歴史的経路依存性と呼ばれているもので、配列を変えるコストがあまりにも大きいために、非効率な配列をそのまま受け継いでいるわけです。

 取引コスト理論というもの、おわかりいただけたでしょうか。最近は「スイッチングコスト」という言葉でも説明されるものと同じですね。

 次回は、ガダルカナル島の日米の戦いをご紹介します。昭和17年(1942)8月に起こった戦いで、日米の地上軍(日本陸軍対米国海兵隊)が初めて相まみえた戦いです。この戦いで日本軍は延べ3万人を島に上陸させ、約4カ月続いた戦いで2万人が戦病死、そのうちの15千人が餓死であったといわれています。

続く



 

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