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2010年11月9日火曜日

人間という「種」への少しの期待

「戦争における人殺しの心理学」


何とも物騒なタイトルですが、これはいずれ講師として皆さんにご紹介したいと思ってた本です。そういえば、そろそろ忘年会の企画をしないといけませんな。


アマゾンのレビューを見てもかなりの高評価でした。この著者はアメリカ陸軍に23年間勤務し、その間ウエストポイント陸軍士官学校心理学・軍事社会学教授、アーカンソー州立大学軍事学教授でもあったデーヴ・グロスマンなる人です。




さて、「PTSD」という言葉をご存じだと思いますが、これは日本語に訳すと心的外傷後ストレス障害となるのだそうですが、アメリカではイラク戦争から帰還した兵士たちに多く見られた症状だそうです。さもありなんとは容易に想像できますね。戦場を経験する人間の最大のストレスは「自らが傷つき、死ぬことへの恐怖」というのがその想像の大元だと思うのですが、これは実は全く違うのです! 


「第二次大戦中、米陸軍准将S.L.Aマーシャルは、いわゆる平均的な兵士たちの戦闘中の行動について質問した。その結果、まったく予想もしなかった意外な事実が判明した。敵との遭遇戦に際して、火戦に並ぶ兵士100人のうち、平均してわずか15人から20人しか『自分の武器を使っていなかった』のである。しかもその割合は『戦闘が1日じゅう続こうが、2日3日続こうが』つねに一定だった。」


「第二次大戦中の戦闘では、アメリカのライフル銃兵はわずか15~20%しか敵に向かって発砲していない。発砲しようとしない兵士たちは、逃げも隠れもしていない(多くの場合、戦友を救出する、武器弾薬を運ぶ、伝令を務めるといった、発砲するより危険の大きい仕事を進んで行っている)。ただ、敵に向かって発砲しようとしないだけなのだ。日本軍の捨て身の集団突撃にくりかえし直面したときでさえ、かれらはやはり発砲しなかった。」


なのだそうです。俄かには信じがたいような内容ですが、これを著者は次のように結論付けます。


「ほとんどの人間の内部には、同類たる人間を殺すことに強烈な抵抗感が存在する」


この結論に対して、様々な調査結果から裏付けようとしているのが、本書の大まかな内容です。
よく考えてみると、なるほどそうなのかも知れないと思うようになります。また、この抵抗感は敵との距離により大きな差がでてきます。例えば空から爆弾を落とす空軍のパイロットや、数十キロ先の相手と撃ち合う艦艇の乗り組員は、この抵抗感を感じないものだといいます。殺す相手の顔が見えないからです。最も近いのがライフルマン、つまりは一般の兵士であるわけです。

第二次大戦中のアメリカのパイロットが撃墜した敵機のうち、その40~50%が僅か1%のパイロットによって挙げられた戦果だという驚くべき結果もあります。相手パイロットの顔が見えるくらいでないと撃墜できないのが当時の空戦ですが、そうなると大きな抵抗が働くらしいのです。ですから、ほとんどのパイロットは、敵機を撃墜しようとはしていないのだそうです。ごく少数(1%)を除いては。

狙撃兵、これはスコープの先で撃つ敵を確認しながら引き金を引くわけですが、それに耐えられるのは全体の2%程度しかいない、先天的に攻撃性の強い人間だと・・・。

エースと呼ばれるパイロットも、狙撃兵もおおかたの人間では務まるものではないらしい。


例えばこんなことも述べられてます。

「イスラエルの軍事心理学者ベン・シャリットは、戦闘を経験した直後のイスラエル軍兵士を対象に、何がいちばん恐ろしかったかを質問した。予想していたのは「死ぬこと」あるいは「負傷して戦場を離れること」という答えだった。ところが驚いたことに、身体的な苦痛や死への恐怖はさほどではなくて、「ほかの人間を死なせること」という答えの比重が高かったのである。
 シャリットは、戦闘体験のないスウェーデンの平和維持軍についても同様の調査を行った。このときには、「戦闘でもっとも恐ろしいこと」として、予想通り『死と負傷』という答えが得られた。そこで、戦闘体験は死や負傷への恐怖を減少させる、とシャリットは結論している。」

これから読み取れることは、

「死や負傷の恐怖は戦場の精神被害のおもな原因ではないということだ。事実、これはシャリットも指摘していることだが、社会的文化的通念では、兵士はわが身かわいさから死や負傷をなにより恐れると思われているが、戦場の兵士の心に重くのしかかっているのは、戦闘にまつわる恐ろしい義務を果たせないのではという恐怖なのである。」


であるとしています。

どうですか。「人間」という種にある種の期待、希望を見出せませんか。

ところが、最近ではそれをどう克服するかという手法が確立され、そのための訓練方法を行っているため、冒頭で述べた非常に少ない発砲率というのはないらしいです(もちろん、国によります)。朝鮮戦争時には55%にまで高まり、ベトナム戦争時でのそれは90~95%にまで高まっているらしいです。訓練次第ではやはり人間は「人を殺す」ことへの抵抗を薄めさせることができるようで、複雑な感想を残します。


国連の平和維持活動を担う兵士はベレー帽をかぶってます。これは、ヘルメットをかぶる兵士を撃つ抵抗が少なく、ヘルメットをかぶっていない兵士を撃つことへの抵抗が大きいからだそうです。頭を守るヘルメットがあるかどうかで発砲率が異なるのです。だから、平和維持軍はベレー帽をかぶっているのだそうです。この方が生きのびる役に立つと・・・。

興味があれば一読を。

今日はこれまで。

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