数年前の出来事です。
地下鉄車内の中で、両手にたくさんの漫画本の詰まった紙袋を提げた老人を見かけました。割とこぎれいにしているホームレス風な装いといったところでしょうか。僕は、なぜだかその老人に目が釘付けでした。空いている車両の中、その人は周囲の目線を気にするでもく腰かけると、おもむろに自分のカバンからワンカップを取り出しました。
そうしてその蓋を開けると、その蓋の裏側をいとおしそうに舐め、揺れる車内の中、一滴もこぼしてなるものかといったふうに大事そうに両手でカップをもちながら、呑みはじめたのです。それは、見ている僕にまでその旨さが伝わって来るような飲み方でした。
あれだけ、酒を旨そうに大事そうに飲む人を見たのは初めてのこと、そしてそれからもお目にかかったことはありません。
毎日ただひたすらに飲んだくれていた当時の僕と、その老人と一体どちらかが幸せだったのだろうかと考えてしまいます。
今日はこれまで。
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