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2010年10月5日火曜日

組織能力とは その12

 今日は、江戸幕府の最後、鳥羽伏見の戦いにおける将軍慶喜、並びに小栗、勝らの動きについてご紹介します。


戦いの詳しい発端は省略しますが、「王政復古の大号令」という薩長主導のクーデターにより、京都御所はその軍勢に固められ、慶喜は追放されてしまいます。大政奉還を受けた朝廷のもと、天下有力諸侯の合議制では、徳川家も当然そこに名を連ねることとなり、これまでの功績からも重要な地位に就くことは間違いありません。それは、ここまで情勢を動かし、作って来た薩長の容れるところではありませんでした。そこで、薩長はその大号令を出し徳川慶喜に対しその領地の返納を求め、政治の表舞台から去りなさいということを天皇の口から言わせたわけです。


怒った幕府兵、会津兵は即時開戦を主張します。軍艦「開陽丸」で大阪に向かった榎本武揚は、慶喜の決断で幕府は勝つと喜びました。ここで、慶喜は逡巡してしまいます。京都にいればいいものを、「我に策あり」として、京都を離れ大阪城に移ってしまうのです。実は策などなかったのです。そこにとどまれば、主戦派に引きずられて戦端を開くことを恐れただけなのです。しかし、慶喜は大阪城において、「たとえ千騎没し一騎となるとも退くべからず。皆の者、死を決して戦うべし」と大演説をし、将兵は奮起して京都へ向かったのです。この頃の慶喜のこの動きの真意は、今に至るもわかっていません。支離滅裂です。幕府軍の兵力は薩長を優に上回っていたにもかかわらず、しかも将兵を置き去りにしたまま、大阪から江戸へ黙って帰ってしまうということをやってしまいます。
 
 「我に策あり」ではなく、「腹案がある」といった目の虚ろな御仁がいましたね。実はないくせに・・・。慶喜もそれと同じだったような気がします。


 さて、鳥羽伏見の戦端が開かれたのは1868年1月3日です。その頃、江戸はどうであったのでしょう。京都の情勢が不運急を告げているのは知っていました。そのために兵も軍艦も送ってあります。しかし、江戸に黙って戦争が始まるなどとは思いもしませんでした。そして、江戸の幕閣たちが開戦を知ったのは1月11日、既に8日も経っていました。江戸大阪間の早飛脚は3日であったにもかかわらずです。既に人物の払拭だけではなく、組織としての機能が停止してしまっていたと言っていいでしょう。


 勝は当時軍艦奉行であったと思います。彼は品川まで慶喜を迎えに行きます。ところが、慶喜やその傍らにいる会津藩主、桑名藩主(藩主は兄弟)ともに真っ青な顔をして、勝が詳細を尋ねても押し黙ったままでした。勝が事の顛末を知ったのは老中首座であった板倉勝静からでした。


「あんたがた、どうなるつもりだ。だから、いわねえこっちゃねえ」


べらんめえ口調で勝は怒鳴ったと言います。


 一方、勘定奉行兼海軍奉行兼陸軍奉行であった小栗は同じく11日に、正式な報告ではなく三井の番頭から3日の開戦を知りました。


 さらに信じられない事ですが、開戦が明らかになり、直ちに幕臣が江戸城に集められるはずですが、全体の会議が行われたのはそれから2日も経った1月13日のことでした。もう完全に政権担当能力どころか、組織としての体すらなしていなかったわけです。


 この頃の混乱については福沢諭吉が書き残しています。城内、市中、すべての人が抗戦、非戦かで大騒ぎであり、城内において日ごろの礼儀やら秩序やらが霧散霧消していたと・・・。諭吉は城内で「緊急の時召し連れる家来は何人か」と質問を受け、「緊急の際は逃げるので心配ご無用」と答えたのに、咎められることもなかったと。




 慶喜は大阪から江戸へ黙って帰ることにした時から「非戦・恭順」と決っていたのでしょう。徹底抗戦を唱え、必勝の作戦を上申した小栗上野介を罷免したことからも、それは明らかです。小栗が上申した作戦は、後に薩長がそれを知り、これが採用されていたら今の天下はなかったと洩らしたといいます。慶喜は抗戦、抗戦とうるさい小栗を罷免し、その代りに勝を政事総裁という、ある意味全権を与えた役職に付けて、後の処置を任せます。


 その後の歴史は皆さんご承知の通りです。1603年の創設以来、265年間続いた江戸幕府は遂にその役目を終えてしまうことになります。




 徳川慶喜という優柔不断な人物、そのくせ世上の評判はよかった人物がなした幕府の終焉に、何とも後味が悪い気を持ってしまうのは僕だけでしょうか。


 自民党を結党以来初めて野党に追い込み、代って首相となった細川護煕という御仁も、つい1年前の眼の虚ろな御仁も、世上の評判は極めて高かったことを思い出して下さい。さらに言うなら、日米開戦必至となって政権を投げ出した近衛文麿も、最初の首相任命時の評判は非常に高かった・・・。結末は最悪。




 次回は、ようやくまとめになります。


 今日はこれまで

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