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2010年10月27日水曜日

トヨタ神話 組織の正統と異端

 最近はすっかり「日経ビジネス」を読まなくなりましたが、かつて毎週目を通していた時にはよく「トヨタ」の記事が出ていました。今でも取り上げられる頻度は多いのでしょうか。アメリカでリコール隠しだ何だという「騒動」があってからは、かつての「トヨタ神話」も過去の栄光ですね。販売台数で世界一を射程に捉えたと思ったら、急転直下の出来事でした。


 もう少し詳しく見てみます。


2008年9月のリーマンショック前は、トヨタの株価は5000円前後でした。リーマンショック後は3000円にまで下落します。今現在も2800円前後です。意外なことですが、トヨタの株は2007年以降じりじりと値を下げていました。2007年といえば、連結営業利益で2兆円をはじき出し、販売台数で世界一になりそうだと報じられていた頃です。しかし、株価は2007年初頭の8000円から2008年半ばには5000円を割り込んでいたのです。


以前紹介した「競争の作法」。

http://3and1-ryo.blogspot.com/2010/10/blog-post_09.html


という本の中に書いてありましたが、その著者は「トヨタの経営者は『ほどほど』を忘れた」と言っています。ちょっとご紹介します。


「自動車販売実績が世界一になることに、きっと良いことがあったのだろうが、経営者が自らの言葉で『世界一の意味』を語らなければ、それが何なのかは明確にならないであろう。残念ながら、『世界一の意味」は、トヨタ首脳陣から語られなかった。
 『営業利益2兆円突破』の方は、ある意味でもっとやっかいである。よほど将来性のある新規事業計画がなければ、2兆円規模の収益を企業内に抱えるやいなや、深刻な問題が起きるのは火を見るより明らかである。企業内にそんな膨大な貯金が蓄えられてしまえば、経営者も、従業員もたがが緩んでしまう。
 賢明な経営者であれば、技術開発投資の資金をある程度確保した上で2兆円の残りの収益を株主に還元するであろう。そうすれば良いことずくめである。企業からみれば、経営の規律も高まり、従業員のモラルも維持できる。公的年金や企業年金の基金の多くは、トヨタ株を保有しているので、年金財政が大幅に改善して、今の年金受給者にも、将来の退職者にも、朗報であろう。
 しかし、トヨタ自動車には、2兆円のほとんどを株主に還元する心づもりはなかったようだ。『世界一』を目指して現在の事業規模をひたすら拡大することにほとんどを注ぎ込んでしまった。そんな経営姿勢にあきれはてた一部の株主たちは、2007年初ごろから7000円から8000円の相場でトヨタ株を売却しはじめたのであろう。おそらくは、こうした株主の動きが、2007年初から株価が低下する契機となった。」


 いかがでしょう?僕はなるほどと思ってしまいます。そして、著者は従業員のたがが緩んだことがリコールにもつながっていったのではないかと、その遠因として挙げています。いかにトヨタといえども、すべての経営者が賢明な判断、決断を続けることは不可能だったわけですね。


 現社長は、豊田章一郎初代トヨタ社長の長男だそうですが、江戸時代の商家のように娘婿だったら?とも考えてしまいます。そういえば、スズキの現社長は、娘婿に社長業を任せる(た?)はずですね。すぐに亡くなられて、復帰しましたが。




 
 かつての帝国海軍の人事制度は非常に硬直的で、戦時においても抜擢人事が皆無でした。これは敗因の一つであると思います。この硬直さは江戸幕府以上ですよ・・・。適材適所が為し得なかっただけでなく、指揮官もそれを補佐し支える参謀も、同じような教育を受けてきた同じような思考パターンしか生み出せなかったわけです。即ち組織の「正統」しか運営の中枢にいなかったわけですね。それも成績優秀者しかその仲間入りが出来なかったのです。それがたび重なる負け戦の原因の一つであったわけです。




 組織を改革する、または飛躍発展させるためには、従来の枠に囚われることのない自由な発想が必要だということに誰も異論をはさまないと思います。しかし、その自由な発想が、異端の新参者によって持たされたりすると塗炭に拒否反応が起こるのではないでしょうか。ちょうど、誰もが「会議室では良いアイデアが出ない」と知っているのに、会議室以外で会議をしようともしない、または認めないという姿勢と似ているかも知れません。


 前者の拒否反応は、機能体組織であるにもかかわらず、共同体組織としての防衛本能が働くからですね。後者の会議室問題は、たた慣例に囚われ、本質を見失っているだけでしょう。


 ま~くんが、新卒の採用人事をやっています。話を聞くと、「酷い」のが増えているらしいですが、逆にいえば彼の眼鏡にかなう人間よりも、目を細めざるを得ない異端の人間の方が、組織や業界にかえって風穴を開けてくれるかもしれません。例えば採用に際して、社長と意見が分れる人間ほど面白みがあるかも知れませんよ。とはいえ、雇ってみて、身近に接してみて、それからでなければほんとのところはわからないでしょうね。僕なんか、この年齢になっても「人」はわからないなと長歎息の毎日ですから。


 ある種の「賭け」ですな・・・。


「大事の前の思案は軽くすべし」(葉隠)




 今日はこれまで。




 



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