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2010年10月8日金曜日

組織能力とは まとめ3

 今回が本当の最後です。


江戸時代の商家がいかにして家業を存続させてきたのかということについてです。


「老舗=しにせ」と読みますが、このそもそもの語源は「親の為(仕)に似せ」で、父祖伝来の家業としきたりを踏襲することを言ったそうです。江戸の商人の創業者や中興者が、家訓や遺訓を示して、末代までの安泰を願ったもので、歴代の主人は先祖の家訓を厳守し、「主人は先祖の手代なり」という川柳まであるそうです。この家訓の中で、一般的であったものに「婿をとり家業を継がせよ」、つまり「息子には継がせるな」というものがありました。


 当時、商家の婿というのはエリートであり公職でもありました。単なる私的な相続ではなかったのです。「株仲間」という商業組合があったことは書きました。当時はその組合中、一軒でも不祥事があると連帯責任で株仲間全体が罰せられたので、商家の跡取りというのは、その親族だけでなく同業株仲間から承認が必要だったのです。なので、後継者=婿選びは非常に慎重であったのです。その基準の一つとして「婿に継がせる」ということがあったのです。


 豪商三井家の在大阪の別家(暖簾分けした店)では、実子の相続は51軒中の僅か12軒、約80%は婿養子が相続していたらしいです。商家の相続は女系であったわけです。武家の相続は徹底的に男系相続であったこととは対照的です。実子に継がせず、他家からの養子に継がせた理由は僕にはわかりません。ただ、それが伝統であったことは確かです。


 
 商家の伝統、組織、仕組み、制度の全てを継承する後継者選びにこのような独特な伝統があったということは、何かしら「人」の問題をどう考えればいいのかを示唆しているように思えます。


 
 政治でも経営でもその学問領域は「社会科学」の一つとなります。「科学」と名が付けられている以上、何かしらの再現性がなければなりません。僕は科学とはそういうものだと考えています。そう考えると、政治や経営にかかわり考察されている「組織」というものの、その生みだす効果や失敗には何の再現性もないように思えてきます。何度も云いますが、


 「優れた人が率いるから優れた組織になるのであり、その逆はあり得ない」


この厄介な「人」という領域は決して「科学」の領域でなく、「文学」とか「歴史」とか、いわゆる「教養」と呼ばれる中に属するものだと思っています。回答不能の領域でもあるからです。ちょっとうまく言えません。




 結論めいたものの稚拙さにはご容赦頂き、教科書では教えない、習わない江戸時代の振り返りを面白かったと言って下されば幸いです。


 今日はこれまで。


最後に、主な参考文献を記しておきます。


将軍と側用人の政治 大石慎三郎
身分制社会の真実 斉藤洋一・大石慎三郎
貧農史観を見直す 佐藤常雄・大石慎三郎
流通列島の誕生  林玲子・大石慎三郎
 
 以上、講談社現代新書


江戸時代を考える 辻達也
    中公新書


江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた 古川愛哲
    講談社α新書


 




 



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